2006年12月26日

あとがき

8月から書き始めたこの小説の連載も136回となり、
とうとう転機を迎えることとなりました。

というのは、7章で同人誌で発表した部分の書き直し作業が、すべて終了したのです。

毎日少しずつ更新していましたが、半年弱かかりましたね。

少しホっとしています。

そして、これからどうしようかと悩んでいます。

それで、すぐに結論を出さないで、
少し充電期間を置こうと思っています。

小説を書くのはかなりパワーもいることなので・・・。

このまま放り出すのは簡単ですが、
そうなるとなんだか登場人物の人生が中途半端で、
かわいそうかなぁという気がしています。

再開まで、どれくらいの時間が必要かは、今の私にはわかりません。

ただ、ここまで読んで頂いた方に対して、
本当にありがたいなぁと思っています。

どうもありがとうございます。

それでは、またいつの日か、お会いしましょう!
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2006年12月23日

第7章 Reset (終)

「それで何か計画があるのですか?」
「ええ、パソコンのインストラクターをしてみようと思っています。今の私にとって、たくさんの人と接することが必要だと思うのです。」
山瀬の声には、いつもとは違う響きがあった。

「わかりました。研究所の方には、1年後ということで、話しておきます」
島本は少しうれしそうな表情で、山瀬を見送った。

「あ、山瀬さん、今とてもいい顔してますよ」

山瀬は振り返らず、照れたように少しだけ手をあげた。


額からこぼれた汗の滴が、窓からこぼれる西日を浴びて一瞬きらめき、赤黒いシミが消えたばかりの大理石のタイルに吸い込まれるように落ちていった。

ふぅ、山瀬はひとつ大きなため息をついた後、床に跪いてかがんでいた上体を起こし、満面の笑みを浮かべて、窓の向こうに見える赤く大きく欠けた下弦の三日月をいつまでも見つめていた。

                               (終)


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2006年12月22日

第7章 Reset 17

TO YOUの社長室のデスクに新聞が広げられている。島本は記事を読みながら、満足気に頷いている。

ノックの音がして、顔に絆創膏を張った山瀬が入ってきた。
「傷の具合はどうですか?」島本が訊ねた。
「もう大丈夫ですよ」山瀬が笑いながら答えた。

島本が黙って山瀬に新聞を手渡した。
記事は、竹芝が発表した発光ダイオードの新技術に対して、マキシスが無効とする訴訟を起こすと書いてある。

「山瀬さん、あなたのおかげでD計画がうまくいきました。本当に感謝してます。相田くんに聞いてビックリしました。二重に仕掛けをしておくなんて、さすがプロの仕事です。」
「ケガの巧妙ですよ、チップの容量に自信がなかったので・・・」
「そんな謙遜しないでください。でもシュレッダーにかけても機械が振動するだけで、そのまま紙がきざまれないなんて、シンプルですが、すごい発想ですね」
島本が感心したように言った。

「自分に自信がない男は、ついつい保険をかけてしまうものですよ」
「そうですか・・・。それで今後のことなんですが、怪しまれないようにもう少しだけビルメンテの仕事を続けてもらって、その後、光学関係の研究所に移ってもらおうと思っています」

山瀬は、その申し出について、少し考えた後、「社長、実はちょっとお願いがあるのですが・・・」」と切り出した。

「半年か一年くらい休ませてもらえませんか?私は技術一本の人間です。人の感情という曖昧なものについて興味もなく、きちんと考えたこともありませんでした。でも今回の仕事を通じて、いろいろなものが見えてきました。そしてなぜ自分の人生がこうなったのか、少しばかりわかってきました。申し出は感謝しています。ただ、今の状態でその研究所に移っても、以前と同じ失敗を繰り返してしまうと思うのです」

「そうですか・・・」島本は視線を落とした
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2006年12月21日

第7章 Reset 16

相田がちょっと言いにくそうに話し始めた。

「実を言うと、岡田に知恵をつけたの俺なんです。昔、やつらが『上司をやめさせたい』と相談に来たときにいろいろと教えてやったんです。だから山瀬さんの人生を狂わせたのは・・・、俺なんです」

そういうことだったのか・・・。

あの出来事はすべて仕組まれたもので、岡田たちの策略にすっかりはめられてしまったというわけか・・・。

そして仕事も家族も失くしてしまった。

でもそれは相田の責任ではない。彼はきっかけにすぎない。

いや、きっかけはもっと前からあった。
それをずっと気づかなかっただけなんだ。

すべてを失くして、そして今、ようやくスタート地点に辿りついた。

やり直すのに遅すぎることなんて、何ひとつない、
昔どこかの本で読んだセリフが浮かんできた。

「気にするなよ、相田くん。もう過ぎたことさ。さあ、急いで事務所に戻ろう」山瀬は作業着で唇の血を拭いながらそう言った。

「エッ?急いで戻ったってしようがないじゃないですか?」
相田がきょとんとした顔をして言った。

「社長が、データを待っているんだろ」
そう言って、山瀬が痛々しい顔で、無理矢理ウインクをしてみせた。
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2006年12月20日

第7章 Reset 15

相田くん!来てくれたのか。

「あんたが今ポケットに入れたものを渡してくれ、そうしたら見逃してやるよ」
相田がバタフライナイフを構えて言った。

岡田が観念したようにゆっくりとポケットから手を出し、いきなり指でチップを押しつぶして、それを相田に投げつけた。

相田が慌ててそれを拾う間に、岡田は相田の膝に蹴りを入れ、その隙に逃げ出した。

「あぁ・・・」相田が折り曲げられて使い物にならなくなったチップを見て、唸った。

「山瀬さん、す、すいません、俺の詰めが甘くて・・・。このチップ、もうダメですか?」膝をこすりながら、相田が泣きそうな声で言った。

山瀬はゆっくりと体を起こした。

「残念だけど、そのチップはもうダメだよ。でも相田くん、ありがとう。変なことに巻き込んじゃったね。膝、大丈夫かい?」
「いいんですよ、これくらい。ちくしょう、岡田の野郎、せっかく山瀬さんへの借りが少しでも返せると思ったのに」
相田が悔しそうに自分の膝を叩いた。

「僕への借り?なんだいそれ?」

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2006年12月19日

第7章 Reset 14

「お前たち、そこで何やってるんだ!」
ガードマン風の男が一人、入り口を塞いでいる。

「え、あのー、怪しい奴がいたので、私が取り押さえました。これから警備室に連絡しようと思っていたのです」岡田が慌ててごまかした。

ガードマン風の男はライトを照らして、右手でバタフライナイフを揺らしながら、ゆっくりと近づいてきた。

「そうですか、それはご苦労様です。ところであなたは?あまりお見かけしませんが、ここの社員の方ですか?」
「そうです、二週間前にヘッドハンティングされたばかりなので・・・」
岡田が冷静に切り抜けようとして答えた。

「へー、でもあんた、マキシスの岡田さんでしょ?そのしゃくれ顎、一度会うと忘れないんだよね」
いきなりガードマン風の男の口調が変わった。

岡田は目を見開き、口をポカンと開けている。

「そこに倒れているのは、あんたの元上司でしょ?あんたがチンピラを雇って、仕組んだんだよな。そのチンピラが満員電車でわざと因縁をつけてケンカをふっかけ、大ケガをしたと会社に押しかけて、その人をクビにさせた。なかなかいいシナリオじゃないか!」

山瀬は驚いて、岡田を見つめた。岡田は慌てて目をそらした。

「岡田さん、あんた、邪魔な上司がいなくなった後、好き勝手やってるみたいだね。そもそもこんな時間になんであんたがここにいるんだい?まあ、最近、竹芝のお偉いさんと密会してるって情報もあるんでね。察しはつくけど・・・」
ガードマン風の男が言った。

「お前、いったい・・・」岡田の肩が小刻みに震えている。
「一度会ったって言ってるだろ。まあ、俺の場合、名前と顔を覚えてもらえないというのが特技なんだけど」

そう言って、男が山瀬の方を見て、ウインクをした。
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2006年12月18日

第7章 Reset 13

山瀬はショックで座り込んだまま、呆然と相手を見上げていた。
ライトが眩しくて男の顔は見えない。

「掃除のおっさんがこんな時間にこんなところで何やってんだ!」
そう言うのと同時に右足が山瀬の顔面に飛んできた。

一瞬、頭が真っ白になり、山瀬は床に突っ伏し、その拍子にマイクロチップが床に転がった。

男はゆっくりと近づき、山瀬の髪を掴み、ライトを顔に近づけた。

「おぉっ!」男は驚いて、手に持ったライトを床に落とした。
そして今度は、奇妙な音を立てて笑い出した。

「これはこれは、懐かしい人に妙なところでお会いましたね」
聞き覚えのある声だ。山瀬は目を細めて男の顔を見た。
このしゃくれ顎、こいつは前の会社で部下だった岡田だ。

なんでこいつがこんなところに・・・?

「山瀬元課長殿、お久しぶりです。電車の中で暴力事件を起こして、会社をクビになって以来ですかね。その後、奥様とお子様に逃げられたところまでは、風の噂で聞いていましたが、まさか掃除のおっさんになって、ゴミ漁りとはね・・・。いやぁ、人間ここまで落ちぶれたくはないですね」
勝ち誇ったような笑みを浮かべて岡田が言った。

岡田は、床に落ちたマイクロチップを丁寧に拾い、シュレッダーのフタを開けて、一通り点検した。

「へー、さすが元課長だ、スキャニングでの社長賞はウソじゃなかったのですね。シュレッダーの挿入口にスキャナーを仕掛け、紙がきざまれる前にデータを読み取るなんてね」
そう言って、山瀬の方に屈みこんだ。

山瀬は、怒りと屈辱と情けなさで言葉が出ない。

「これは預かっておきますよ」岡田がそう言って立ち上がったとき、いきなり別のライトが二人を照らした。
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2006年12月17日

第7章 Reset 12

「ところで、タカシちゃん。落ち込んでるのって、やっぱあの件なの?」
そう言って、小百合が島本の携帯を取り上げた。

「いくら誰もいないからって、事務所の中でタカシちゃんって呼ぶのはやめろよ。君は一応僕の部下ってことになってるんだから」
島本は小百合の顔を睨んで、そう言った。

「あれれー、そんなこと言っていいのかなー。この事務所の出資金は誰が出したんだっけ?失恋して、会社やめてボロボロだったとき、救ってあげた人のこと忘れてないよねー」
小百合はそう言って、島本の膝の上に座って、彼の顎を指で軽く弾いた。
「・・・」 
「ほーら、何も言えないでしょ」小百合が弾いた顎を撫でている。
「わかってますよ、オーナー様。今宵はずいぶんとお酒が進んだようで・・・」島本が肩をすくめて答えた。

「あら妬いてるの?」
「別に・・・。でも落ち込んではないよ」

「強がんなくてもいいのよ。あたしを誰だと思ってるの?あなたの右耳の微妙な動きや唇の色、動脈の動きまで全てチェックしているのよ。あたしに隠し事はできないのよ」
小百合は上目使いで甘い声で囁いた。
「ねーえ、タカシちゃん、もう彼女のことは、いい加減あきらめなさいよ。娘が生まれて母親になったんだから・・・」

島本は何も言わずに小百合の顔をじっと見つめた。
小百合は島本の前髪を撫で上げ、額の傷を指でなぞった後、彼の頭を両腕で包み、自分の胸に押しつけた。

「あたしは、いつまであなたの母親代わりをしなきゃいけないの?こんないい女の心に一度もふれないなんて・・・」

相手の気持ちが手に取るようにわかる、それは素晴らしいことだと小百合は思っていたが、知りたくもないことまで自分の中に入ってくるのが、これほどつらいことだとは思わなかった。

小百合は抱きしめる両腕に力を込め、目を細めて、窓の外の遠い三日月を見つめていた。

そのとき、ソファーの隅に放り出されていた島本の携帯が鳴った。
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2006年12月16日

第7章 Reset 11

空調が切れて蒸し暑い事務所の中で、島本は山瀬からの連絡を待っていた。
最初の仕事としては少し重すぎたかもしれない。

うまく行かなかったときのクライアントに対する対処方法をあれこれと考えているうちに、いつのまにか0時を回っていた。

「やっぱ、まだいると思った!」
いきなりドアが開き、小野小百合が入ってきた。

「おいおい、ノックぐらいしろよ、ビックリするじゃないか」
「調査事務所の社長なら気配ぐらい感じないとまずいよ」
小百合は少し赤い顔をして、島本お気に入りの築地の寿司屋の包みをポンとデスクに置いた。

「差し入れか、珍しいね。ありがとう。ところで今夜のお勤めの相手は誰だったの?」
島本は包みを早速包みを開けながら訊ねた。

「マキシスの専務よ」小百合が眉を上げ、少し首を傾げて得意げに微笑んだ。
「え、嘘だろ?」島本は驚いて、素っ頓狂な声を出した。

マキシスは山瀬の勤めていた会社で、プロジェクトDのターゲット会社だ。

「あたしも少しは働かないとね。だって山瀬さんてさー、ちょっとまわりが見えてないところあるでしょ。少し心配だったから・・・。でも男ってさあ、ベッドの上だとどうしてあんなにおしゃべりになるのかなぁ。聞いてもないのにペラペラと、いろいろなこと教えてくれたわ」

「さすが、都内ナンバー1の腕は衰えていないね。それでその専務は何て言ってたの?」
「山瀬さんの読みどおりだったの。明日、例のベンチャーからプレゼンを受けて、早いければ、明後日にでも契約書を交わすって」

まずいなぁ、そうなると今晩がリミットだ。
明日の朝一番でクライアントの竹芝に持ち込まないと間に合わない。

「いやー、助かるよ、ホント。クライアントの携帯にメールで知らせておかないと」
島本はそう言って、寿司を頬張りながら、携帯でメールを打ち始めた。
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2006年12月15日

第7章 Reset 10

作業着の胸のポケットに入れた携帯の振動が、心臓に電気ショックを加えたような衝撃を与え、山瀬は飛び起きた。

どうやら最終ラウンドのゴングが鳴ったようだ。

額に流れる嫌な汗を拭い、深呼吸を3回した後、山瀬はゆっくりと立ち上がった。
作業道具をシュレッダー用の大きなゴミ袋に入れ、朝と同じように荷物用のエレベーターで31階に上がり、スペアキーでドアをゆっくりと開けた。

一瞬、空気が揺れたような感じがした。
山瀬は立ち止まって、あたりを窺ったが、特に変わったところはない。
少しナーバスになっているのかもしれない。

山瀬は、そのままシュレッダーの裏に取り付けた小さなボックスの取り外し作業にかかった。
これは細心の注意を要する作業で、ボックス内のチップに傷がつくと読み込んだデータが台無しになってしまう。

たっぷりと時間をかけ、最後のネジを外したところで、どっと汗が吹き出た。

ふうー、安堵のため息をついて、山瀬は目を閉じた。

そのとき、背後からいきなり肩を掴まれ、驚いて振り向いた山瀬の顔にライトが当たった。
タグ:恋愛小説
posted by 嶋田 美裕 at 00:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 第7章 Reset | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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